2025年5月27日、「物流革新緊急パッケージ」を実現するための法改正、いわゆる「トラック新法」が衆議院で可決されました。今回の改正は、物流業界の2024年問題への対処として注目されており、運送事業者の経営や現場に直結する大きな制度変更を含んでいます。
本コラムでは、トラック新法の主な改正点を、改正前と改正後の“ビフォーアフター形式”で整理し、運送事業者として何を準備すべきかをわかりやすく解説いたします。
【許可更新制度】の導入
Before:許可は一度取得すれば「無期限」
現在の貨物自動車運送事業法では、事業許可は一度取得すれば、その後更新の必要はなく、取り消されない限り事業継続が可能でした。
After:5年ごとの「許可更新制」へ移行
改正後は、5年ごとに許可を更新する仕組みになります。更新時には、法令遵守状況や安全管理、労務環境、財務健全性などが審査対象となります。
ポイント
- 安全基準や適正な運賃設定、ドライバーの待遇改善が求められます。
- 不適切な事業者は更新不可となり、市場から退出する可能性も。
- 許可の更新業務を担う「独立行政法人」の創設も予定されています。
【再委託(多重下請け)】構造の見直し
Before:制限なし(事実上、多重下請けが常態化)
元請→一次下請→二次下請…といった多重構造が広がっていました。その結果、運賃が中抜きされ、末端の実運送事業者が圧迫される構造が問題視されてきました。
After:「2次請けまで」へ抑制(努力義務)
今後は、再委託は原則2次下請けまでに抑えるよう、荷主や運送事業者に努力義務が課せられます。
ポイント:
- 国は再委託の回数や内容の報告を求めることが可能に。
- 不適切な委託が確認された場合、指導・勧告・公表の対象になる可能性があります。
- 実態把握と抑制が進むことで、健全な取引環境の形成が期待されます。
【適正運賃制度】の創設
Before:運賃は自由設定(過当競争あり)
現行制度では、運賃は基本的に事業者間の自由契約で決定され、コストを無視した「安売り競争」が横行する要因になっていました。
After:「適正原価(下限運賃)」が基準に
新制度では、国が告示する「適正原価」に基づく最低限の運賃を下回る契約が禁止されます。
ポイント:
- 燃料費、人件費、車両維持費などを加味した「適正原価」を国が提示。
- これを下回る運賃契約は違法となり、行政指導の対象になります。
- 価格競争ではなく、品質やサービスでの競争が促進されます。
【白トラ規制】と荷主への責任強化
Before:無許可業者(白トラ)との取引に荷主の罰則なし
無許可事業者(白トラ)に運送を委託しても、荷主側には明確な罰則はありませんでした。
After:「荷主にも禁止義務」+「罰則付き」
今後は、荷主が白トラと取引すること自体が禁止され、違反時は罰則対象となります。
ポイント:
- 国交省は、違反荷主に対して是正命令・勧告・企業名公表が可能に。
- 荷主も運送会社の許可状況を確認する責任を持ちます。
- 運送業者は「許可証提示」や「Gマーク取得」など、信頼の可視化が求められます。
【ドライバー処遇の確保義務】
Before:待遇改善は「努力義務」止まり
これまでは、ドライバーの賃金や労働時間などに関する指針はありましたが、事業者側の義務は明確に定められていませんでした。
After:処遇確保が「法的義務」に
改正法では、適切な賃金水準や評価制度、教育訓練の提供などが事業者の義務になります。
ポイント:
- 対象はトラック運送業だけでなく、利用運送(元請)も含まれます。
- 許可更新時の審査項目にも含まれる見通しです。
- 処遇の見直しが遅れると、許可更新が通らないリスクがあります。
施行時期は段階的に
本法案は2025年中に公布され、下記のように段階的に施行される予定です。
改正項目 | 施行時期(予定) |
---|---|
再委託規制/白トラ規制 | 公布から1年以内(2026年中) |
許可更新制度/適正運賃制度/処遇義務 | 公布から3年以内(2028年中) |
運送事業者が今から取り組むべきこと
まだ具体的な内容は発表されていないので、以下は私の推測になりますが、慌てないために今からできる準備は以下のとおりです。
許可更新の審査項目
①行政処分歴や法令違反の有無
②巡回指導の評価結果(ABCの範囲)※巡回指導でチェックされる項目を満点に近づける
③日々の点呼、日報、運行管理体制、ドライバー教育、適性診断の実施など
④社会保険の加入状況
⑤国が定める適正な運送契約の締結
⑥事業報告・実績報告の提出
※Gマークを取得しておくのもプラスに働くかもしれません。
再委託(多重下請け)
運送委託は「2次請け」までに今から整えておく
適正運賃制度
標準的運賃届の提出をしておく 適正運賃を大きく下回る契約をしている場合は、行政指導の対象となる ※運送会社の運営とドライバーの給料に影響するため
白トラ規制
白ナンバーへの委託防止の強化 今以上に厳しくなると予想されます。荷主にも責任が問われる可能性あり。
ドライバー処遇の確保義務
労働者の待遇に関する審査制度の新設 従業員の給与、労働時間、健康診断の実施状況(日々の管理も含めて)
現時点で法令順守を徹底していれば、そこまで慌てる必要はないのではないかと思います。 巡回指導対策と同様の取り組みで、更新はできるのでは?と考えております。
おわりに
今回のトラック新法は、ドライバーの待遇改善と物流の持続可能性を目的に、運送業のルールを根本から見直すものです。今後は「安全・適正な運賃・適正な働き方」を実現している事業者だけが生き残る時代となります。
行政書士 諸井佳子事務所では、許可更新制度や運賃交渉、処遇改善、Gマーク取得など、運送事業者さまの実務に即した支援をご提供しております。制度への備えに不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。